「『アメーバ経営』による全員参加経営」
潮 清孝 経営学部准教授

潮准教授
潮准教授

 「アメーバ経営」という言葉を耳にしたことがある人はどの位いるだろうか。京セラ株式会社および同グループ企業を中心に実践されている経営管理手法であり、「小集団部門別採算制度に基づく全員参加経営」などと呼ばれることもある。

 アメーバ経営における最小の採算単位は十数名前後の「係」や「班」のレベルであり、それらは「アメーバ」と呼ばれる。各アメーバでは「時間当り採算」と呼ばれる指標を用いながら、毎朝行われる朝礼などで、逐次、自分たちの採算状況の確認が行われる。すなわち「あなたが働いた一時間で、どれだけの儲けを生み出したのか」ということを、全員に、常に、問いかけ続けることで、利益を生み出すための創意工夫を、組織全体で少しずつ積み重ねようというのである。

 「アメーバ」と呼ばれる所以は、その日の状況に応じて現場の判断で人員を貸借することが認められており、頻繁に各アメーバのサイズ(人数)が伸縮する点にある。状況によってはアメーバ同士が結合して新たなアメーバを形成する、あるいは逆に、ひとつのアメーバが分裂して複数のアメーバが作られることもある。

 筆者が注目するは、「予定」と呼ばれる各アメーバの月次採算計画の策定プロセスである。計画(plan)⇒実行(do)⇒分析(check)⇒修正行動(action)をベースとする「フィードバックコントロール」というのはよく知られているが、アメーバ経営で実践されているのは、「フィードフォワード」型のコントロールである。フィードバックコントロールでは結果が出てから次期への修正行動が検討されるが、アメーバ経営では、実行の前の段階、すなわち計画策定段階で、より長期の計画とのすり合わせが徹底されている。

 具体的には、毎月初に一カ月間の行動計画と時間当り採算の見込みが作成されるが、当該数値が年間計画と比して低いようであれば、その時点で、どうすれば当月の採算を上げることができるのか、徹底的に議論が行われる。同時にその採算計画が本当に実現可能なものなのか、「時間当り採算」を構成している「収益(売上)」「費用」「時間」はもとより、それらをさらに要素ごとに分解した各数値(例:品種ごとの受注量、得意先ごとの仕入単価、構成員の残業時間)、及びそれらを達成するために必要な具体的行動計画について、各アメーバの構成員全員で綿密な予定を立てる。筆者らのインタビューにおいては、「我々にとっては計画が全て」とまで言い切る現場責任者もいるなど、京セラのアメーバ経営では、計画段階で予め問題点を洗い出し、実行段階に移る前にその芽を摘もうとする姿勢が徹底されている。

 一方で、外部企業におけるアメーバ経営の導入に際しては、いくつかの課題もある。例えば導入の目的や必要性が社内で共有されていない場合には、採算計算が形骸化してしまうこともある。また現場レベルでの事務負担が増加する傾向にあるため、経営者が率先して“労をいとわず”の姿勢を示さなければ、参加意欲の低下を招く。これらの点を克服し、真の意味での「全員参加」を実現できるかどうかが、アメーバ経営を導入・実践する上での鍵となる。


【略 歴】
潮 清孝(うしお すみたか)・中京大学経営学部准教授
会計学・管理会計論
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学)
1979年生まれ。

2013/01/15

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