ドット絵と数式の類似性 数式に広がる世界の冒険

 「ゆめとぼうけんと!ポケットモンスターのせかいへ!レッツゴー!」1996年2月に発売されたテレビゲーム、ポケットモンスター赤・緑(携帯型ゲーム機用ソフトであるため、厳密には、テレビゲームとは言わないかもしれない)に、幼少の私は夢中だった。30年近く昔の話である。今になって思い返すと、このポケットモンスターは、理論経済学の研究に通じる原体験だったと思う。

 ゲームをスタートすると、いくつかの説明ののち主人公の立ち絵が表れ、名前をたずねられる。その後、冒頭の掛け声と共に、主人公の姿はみるみる縮み、2頭身にデフォルメされる。そして私は、デフォルメされた2頭身の主人公になりきって、ドット絵で描かれたポケットモンスターの世界を冒険していた。

 白黒のドット絵で表現されたキャラクターやマップは、お世辞にも写実的とは言い難い。しかし、幼少の私はモノクロの点の羅列を通して、確かにポケットモンスターの世界を認識していた。ドットという記号によって、一つの世界が構築されていたのである。

 理論経済学も同様に、数式の羅列によって、一つの世界を構築する。この数式で表現された世界のことを、経済モデルと呼ぶ。はたから見ると、現実経済を模しているとは、到底思えないかもしれない。だが、経済学に慣れてくると、その連立方程式に一つの世界を見るようになる。ドットと数式、表現方法は異なれど、記号により一つの世界を構築する点に、私はテレビゲームと理論経済学の類似性を感じている。

 テレビゲームが、人物や風景の特徴を捉えて、デフォルメすることで、ドット絵に落とし込んでいたように、理論経済学は、現実経済の本質を見極めて、それを抽出することで、数式に落とし込む。本質を抽出することを、抽象化という。デフォルメされた、ドットの世界を歩き回るのに使った、十字キーとAボタン・Bボタンの代わりに、抽象化された経済モデルの世界を探検するときに使うのは、数学の論理である。

 自分で構築した経済モデルでさえ、実際に計算するまでは、結論は見えない。ドットの世界を、隅々まで歩き回ったように、経済モデルの世界を隈なく探検し、その世界についての知見を深めていくとき、幼少期のあの冒険のときめきを、かすかに思い出す。思いもよらない発見に、興奮することがある。すべてを終えたときに、胸が熱くなることがある。

 ともすると、経済学は、文系なのに数学を使う学問として、敬遠されがちであるように感じる。よく分からない計算をしている学問だと、思われている気がする。しかし、なんてことはない。子どもの頃に、胸をときめかせて、見知らぬ世界を冒険していたように、現実経済を抽象化した世界を、数学という論理を使って、冒険しているだけである。もし、理論経済学に、興味を持っていただけたなら「論理と抽象と!経済学の世界へ!レッツゴー!」

【略歴】

名前:森本 貴陽(もりもと たかあき)

中京大学経済学部講師

専門分野:マクロ経済学・経済成長理論。

最終学歴:大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。

西暦生年:1991年

➁【中京大学】(写真)経済学部_森本貴陽先生.jpg

2025/11/05

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