老朽化だけが問題ではない上下水道事業 人材不足が運営を逼迫

 2025年1月、埼玉県八潮市で下水道管に起因する大規模な道路陥没事故が発生した。また、25年4月、5月には、京都市、大阪市において水道管が破損し、大規模な浸水被害が相次いだ。大規模だったがゆえ、ニュースとしても大きく取り上げられ、皆が周知することとなったが、実は水道においては年間2万件を超える漏水や破損事故が発生している。 

 多くのところで水道は下水道よりも先行して整備され、1980年代には水道普及率は90%を超え、下水道は約30%という状況であった。そのため、水道管の老朽化に対しての認識は高まっていたものの、下水道管における老朽化はもう少し先にあるとの認識もあったことから、埼玉県八潮市の大規模な事故は関係者にも衝撃を与えた。また、敷設年数のみならず、口径や腐食しやすい条件なども考慮した更新の必要性が高まった。

 さらに、能登半島地震においても水道、下水道は大きな被害を受けた。今後の災害対応においては、上下水道施設、管路、管きょの老朽化への対応とともに、上下水道一体となった耐震化が求められているようになった。耐震化は、老朽管の更新と一体で行われることが多く、事業体にとっては予算の不足が大きな壁となる。

 上下水道事業においては、料金収入の減少における収益環境の悪化や、老朽化更新などにおける費用の増加などが課題としてあげられてきた。さらにここにきて、より一層の課題となるのは職員不足による技術継承、事務継続への懸念であろう。水道統計によれば、1980年をピークに水道事業の職員数は減少しており、2023年においてはピーク時より約4割減少している。 

 新規整備が主であった1980年当時と現在とでは事業の状況は変化している。一方、老朽化の更新への対応や、災害に強い持続可能な上下水道に向けた取組など、これまで以上に上下水道事業への事務は増加しており、現状の職員不足は厳しさを増す一方と言える。特に、小規模な事業体においの職員不足は厳しい。上下水道事業における老朽化、耐震化への対応へも人材が必要であり、すでに職員不足が課題となっている上下水道事業において、これからの事業を考えれば、職員不足はより深刻な問題である。

 職員不足の補完としては、官民連携の推進やDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が検討される。特に、小規模事業者ほどこれらの活用は有効的な手段である。ただし、DXを進めるにも、現場技能に加え、配水データ、スマートメーター、衛星・音聴データなどを扱える人材、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、サイバー管理などに長けたICT(情報通信技術)人材といった専門性を要する人材確保も必要となる。そのため、小規模事業者ほど、新規事業の取組には職員負担の増加が避けられないことから消極的にならざるを得ない状況もある。持続可能な上下水道事業には、人材不足をどのように解決していくかも重要な課題である。

【略歴】

名前:齊藤 由里恵

中京大学経済学部准教授

専門分野:財政・地方財政・公共経済学

最終学歴:東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)

西暦生年:1981年

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2025/10/14

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