安全保障とインフラ整備
2015年の安全保障法制成立以後、日本の防衛政策は大きく変化している。22年の安保関連三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)で示された反撃能力の保有や防衛費増大だけでなく、多くの国民が意識しない間に、様々な施策が展開されているのである。
特定空港・港湾整備事業の推進
その一つに特定空港・港湾整備事業がある。これは安全保障問題に関係する重要な民間の空港・港湾について、整備事業に政府が補助金を出すというものである。北海道から沖縄まで、指定は全国に及んでいる。
民間の空港は、滑走路の長さや強度が軍用機の使用に耐えられない場合がある。港湾も、桟橋の長さや港の深さが十分でないと、大型の艦船の利用ができない。こうした空港や港湾の整備を進めることで、アメリカの新しい戦略にも対応した柔軟な活動ができるようになるわけである。
こうした空港や港湾の整備は、地元の産業界にとってみると、空港や港湾を利用した物流機能が強化されることであり、メリットも大きい。地元自治体では財政力に限界があるために整備できなかったものが、政府が促進してくれるわけである。沖縄を除けば、多くの自治体が歓迎しているのも自然のことである。
指定された空港や港湾は、自衛隊や海上保安庁の使用が想定されており、自衛隊の施設等が建設されるわけではないので、特段の危険はないというのが政府の説明である。しかし、民間の空港や港湾は、1997年と2015年のガイドラインで日米共同使用が合意されていたものである。自衛隊が使用する施設は米軍も使用する。近年、日米合同軍事演習が繰り返されているが、民間の石垣港や石垣空港に米軍の装備が運ばれ、演習に使用されている。事業の理由は安全保障であり、有事の際は当然軍事的に使用されるのである。
国民が考えておくべきこととは
戦後、多くの公共インフラが整備されたが、戦争を意識した計画はなかった。一度も戦争に巻き込まれなかった日本は幸福であったのである。しかし「台湾有事は日本有事」としばしば語られるようになった。米国の戦略では、日本全体の施設をいかに使うかが前提となっている。一方で多くの日本人は、台湾有事は沖縄の問題と考えていないだろうか
安全保障は国全体の問題である。軍事的に使用される空港や港湾は、「敵」から見れば軍事施設であり攻撃対象となる。空港や港湾整備にはメッリトもあるが、デメッリトもあるということを忘れてはならない。
【略歴】
名前:佐道 明広(さどう あきひろ)
中京大学国際学部教授
専門分野:日本政治外交史、安全保障論
最終学歴:東京都立大学大学院博士課程単位取得博士(政治学)
西暦生年:1958年