株式市場の新地図を読む 市場拡大の主役は個人

 わが国の株式市場は、歴史的な高値で推移している。長らく更新されなかった日経平均株価は、2024年2月に最高値を上回り、翌月には4万円台に到達した。その後も上昇基調は続き、25年10月には5万円を突破している。この急速な株価上昇は、円安による輸出企業の業績押し上げや外国資本の流入などのさまざまな要因が背景にあるが、個人投資家の増加もその一因となっている。

 日本の家計は長らく預金主体の資産形成をし、投資には慎重であった。しかし、その状況は大きく変わりつつある。転機となったのは、14年に導入された少額投資非課税制度(NISA)である。投資収益が非課税となるこの制度は、その後、長期積立を対象とした「つみたてNISA」や未成年向けの「ジュニアNISA」へ拡大した。そして24年には、非課税枠を大幅に拡張した「新NISA」へと移行している。

 制度改革の効果は、数字にも明確に現れている。日本取引所グループの株式分布調査では、個人株主数(上場企業ごとの株主数を単純合算した延べ人数)は、12年の約4千万人から24年には約8300万人に増加している。かつて富裕層中心だった株式投資は、いまや若年層や子育て世帯にも身近な存在となっていることが確認できる。

 一方、投資家層の多様化は、情報格差の問題を招く恐れがある。株式投資には企業情報を収集・分析する能力が求められるが、その水準には個人差が存在する。投資家が増えたことで、こうした能力格差の問題が浮き彫りになったといえる。

 個人投資家を株式市場に定着させるには、単に参入を促すだけでは不十分である。重要なのは、安心して投資を継続できる環境を整備することである。その第一歩となるのが、企業による情報開示である。企業の現状や将来見通しを適時に発信することは、投資家の企業理解を促進し、合理的な投資判断を可能にする情報基盤となる。

 また、こうした開示情報を専門的に分析し、投資家が活用できる形に再変換する役割を担うのが証券アナリストである。彼らは、企業情報や業界動向を総合的に分析し、投資家の判断をサポートする情報を提供することで、市場の情報格差を埋めている。さらに、監査法人による厳格なチェック体制は、開示情報の信頼性を担保するうえで欠かせない。加えて、学校などでの金融リテラシー教育の拡充も重要である。

 昨今の投資家層の広がりは、一時的なブームで終わるのか、それとも長期的な株式市場の成長を支える原動力となるのか。日本の株式市場は、いま重要な局面を迎えている。

【略歴】

加藤 政仁(かとう まさひと)

中京大学経営学部准教授

専門分野:コーポレートファイナンス,企業価値評価

最終学歴:神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了,博士(経営学)

西暦生年:1987年生まれ

➁【中京大学】(顔写真)経営学部_ 加藤政仁先生.jpg

2025/12/03

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