Z世代のブランド観
わたくしはマーケティング研究者であり、ブランドマネジメント論という講義を担当している。ブランドなど読者の方々には釈迦に説法であると思われるので、ここでは、講義のなかで得た、わたくしにとって目からうろこの経験となったZ世代のブランド観についてお話させていただく。
ブランドは、その指示対象から企業ブランドと製品ブランドに分類される。そして、企業ブランドの下に製品ブランドを置くカタチをアンブレラ型と呼び、日本ではこのタイプが最も多い。日本の消費者は、企業名に対する信頼が強いからだとされている。
昨年、世間を騒がせた、ある製薬会社のサプリメントに関する事件を記憶してらっしゃる方も多いだろう。製造工場でカビが混入してしまい、経口を続けると腎疾患を引き起こした事件である。
この件に関して、わたくしの講義のなかで受講生に「この製薬会社は他にも多くの製品ブランドを持っているが、それらを購入し続けるか」と問うたところ、90%の割合で購入し続けると回答されたのである。わたくしは、講義をしながらびっくりしたのを覚えている。当時まさに起きている事件であったため、その企業ブランドに対する信頼は失われ、購入し続けると回答するのは半分以下だろうなぁと想定していた。しかし、受講生から返ってきたのは、「企業ブランドを気にしない」「購入にあたって企業ブランドなど見ない」、という意見であった。アンブレラ型の崩壊である。他にも、1万人を超える食中毒被害者を出した乳製品メーカーの事件や、衣類からホルマリンが検出された子供服メーカーの事件、衝突試験に関する不正が発覚した自動車メーカーなどを紹介し、同じ質問をしてみたが、同じ回答であった。
もう一つ、わたくしがびっくりしたのは、Z世代にとってそもそもブランドというものの存在の希薄化である。ブランド連想のペグには製品属性や無形資産、顧客便益など多くあるが、その一つの人物について受講生と理解を深めていた際に経験した目からうろこである。
非常に人気のあるスニーカーメーカーの企業ブランドとアメリカのバスケットボール選手を起用した製品ブランドから、どのように連想が広がるかについて意見を出し合っていた。その際、受講生の一人が「この企業ブランドのスニーカーを購入したが、それは大好きなサッカー選手のモデルであったからであり、企業ブランドも製品ブランドも関係ない。このサッカー選手のモデルであれば、他のメーカーから出ていても購入した」と発言し、ほとんどの受講生が賛成の意を示したのである。このような、購入への影響要因としてまるでブランドなど効かないとの発言に、わたくしは驚いた。
企業ブランドの影響力の低下、そもそもブランドという存在の希薄化、これらについては定量調査を実施し科学的に検証しなければならない。ここでは、わたくしの研究のタネとして紹介させていただいた。
【略歴】
名前:宮内 美穂
中京大学総合政策学部教授
専門分野:マーケティング
最終学歴:神戸大学大学院経営学研究科 博士後期課程 修了