米国スポーツ医学会発刊の学術雑誌にスポーツ科学部の渡邊航平教授の招待総説論文が掲載

 アメリカスポーツ医学会が発刊する学術雑誌Exercise and Sport Sciences Reviewsにスポーツ科学部の渡邊航平教授(兼任:国際教養学部・教授)らが執筆した論文が掲載された(現地時間6月12日公開)。当該雑誌に掲載される論文は、これまでの研究論文を集約した「総説論文」に限られており、編集委員会からの招待があった研究者にのみ論文執筆の機会が与えられる。
 本論文では、渡邊航平教授、京都大学・神崎素樹教授、京都大学・森谷敏夫名誉教授(本学客員教授)による研究チームとイタリア・トリノ工科大学のTaian Vieira助教授、イギリス・バーミンガム大学のAlessio Gallina助教による研究チームが、各々で2010年代にJournal of BiomechanicsやJournal of Physiologyといった生体力学や生理学におけるトップジャーナルで発表してきた研究成果をまとめ、新たな研究仮説を立証したものである。
 これまで、1つの筋肉は全体が均一にその活動を制御されているという考え(Homogeneous neuromuscular regulation hypothesis)の下で、ヒトを含めた動物の身体運動が評価されてきた。そのため、筋肉の活動を評価するための最もスタンダードな手法(表面筋電図法)では、1つの筋肉の活動を評価する際には1つの電極(センサ)が用いられてきた(図・左)。渡邊教授らのグループは、股関節と膝関節をまたぐ二関節筋である大腿直筋が、1つの筋肉であるにもかかわらず、部位によって異なる活動の制御が行われ、異なる役割を担っていることを15編の国際学術論文を通して明らかにしてきた(図・中央)。また、同時期にトリノ工科大学(当時Gallina氏はトリノ工科大学の大学院生)では、内側腓腹筋という二関節筋において、部位によって異なる活動や役割を有することが発見されていた。これらの生体力学的・生理学的なエビデンスから、いくつかの筋肉(大腿直筋、内側腓腹筋)では、1つの筋肉の活動が区画的に制御されている(Regional neuromuscular regulation hypothesis)といった新たな概念が提唱された。これに伴って、従来の表面筋電図法を見直し、大腿直筋や内側腓腹筋といった筋肉では区画ごとに異なる複数の電極を用いて活動を評価することが推奨され、本論文にはそのガイドラインも掲載されている(図・右)。
 渡邊教授は、「本論文で提唱した新たな概念は、ヒトの巧みな動きや疾患や障害などによるその損失を理解する上で非常に重要になると考えられる。また、それを評価するための方法論としての新たな表面筋電図法のガイドラインは、バイオメカニクスをはじめとするヒトの身体運動を扱う研究領域において、広く応用されることが予想される。」とコメントした。
 現在、この研究に関連するプロジェクトとして、トヨタ自動車との高齢者の運転技術に関する研究、国立長寿医療研究センターとの脳神経疾患などによる歩行機能障害に関する研究、日本体育大学とのスポーツ選手における肉離れ発生メカニズムに関する研究、南アフリカ・ケープタウン大学との脳梗塞患者における歩行機能低下のメカニズム解明に関する研究などが進められている。最後に渡邊教授は「スポーツ科学で培われた発想、研究成果、測定技術が様々な分野で応用できることを広く知ってほしい」と、新たなスタートを切った本学スポーツ科学部の学生にメッセージを送った。

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渡邊航平

スポーツ科学部・教授 (兼任:国際教養学部・教授)

国際電気生理学会・理事、日本バイオメカニクス学会・理事、日本トレーニング科学会・理事

2024年国際電気生理運動学会大会長(名古屋市にて開催)

論文公開ページ

https://journals.lww.com/acsm-essr/Fulltext/2021/07000/Novel_Insights_Into_Biarticular_Muscle_Actions.4.aspx

研究室ホームページ

http://kwatanabe.net/index.html

渡邊航平教授Twitter

https://twitter.com/KoheiEMG

2021/06/14

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