教養教育研究院・吉子彰人助教とスポーツ科学部・渡邊航平教授が高齢者における自宅での自重負荷スクワットトレーニングの科学的な効果の検証に成功
教養教育研究院の吉子彰人助教とスポーツ科学部の渡邊航平教授は3月、高齢者が自宅で実施したスクワットトレーニングの効果を科学的に検証することに成功した。
この研究では、65歳以上の高齢者に、自宅で実施することができる「自重負荷スクワット (バーベルなどの重りを持たず自分の体重を負荷とするスクワットのこと)」を12週間行い、太もも部分の筋肉量、膝の伸展筋力、レッグプレスの最大挙上重量と運動機能 (歩行速度やイス座り立ちテスト) を4週間の間隔をおいて評価した。この研究のポイントは、沈み込みの異なる2種類のスクワットを設定した点である。「一般的な高さの椅子の上に置いたクッションにお尻が触れるまで沈み込むスクワット (沈み込みの浅いスクワット、図A)」と「一般的な高さのイスにお尻が触れるまで沈み込むスクワット (沈み込みの深いスクワット、図B)」をそれぞれ8名ずつの高齢者に実施し、トレーニング効果に違いがみられるかどうかを合わせて検証した。
研究に参加した高齢者は、週に3日、1日あたり4セット (1セット35回、4セットで140回) のスクワットを行った。12週間のトレーニングを実施した結果、両グループにおいて、レッグプレスの最大挙上重量の増加とイス座り立ちテストの改善が確認された。しかしながら、2種類のスクワットの間には、これらの増加・改善の程度に違いが見られなかった。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅で過ごす時間が増えたため、自宅で実施可能なトレーニングがインターネットやSNSで広く紹介されている。しかしながら、そのようなトレーニングの効果は科学的に検証されていないことが多く、その結果「効果があるか分からない」といった理由でトレーニングを中断してしまうことが想定される。自重負荷スクワットは、小さなスペースでも実施可能で、方法が理解しやすく、お金がかからず、怪我のリスクが低いといった点からも、高齢者への実施が奨められている。今回の検証では、トレーニング効果を得るために重要なトレーニング強度を「沈み込みの深さ」によって調節し、またトレーニングを自宅にて実施していただくことで、より実践的な環境を想定した。今回の研究によって、自宅で行う自重負荷スクワットであっても、高齢者の下肢の機能が改善すること、スクワットの沈み込みの深さはその効果に影響しないことが明らかになった。今後は、このようなスクワットのポシティブな効果を根拠に、高齢者へのスクワットトレーニングの実施を勧めることができる。
【補足】
本研究は、共著者である渡邊航平教授が企画・運営する地域在住高齢者向け体力測定会「八事いきいきアカデミー」の参加者の一部を対象に行われました (測定会の詳細:http://kwatanabe.net/privacy.html)。測定会は、高齢者の健康へのモチベーション向上を目的として年2回実施されています (新型コロナウイルス感染防止のため2020年度は中止)。今回の研究を通して、地域の方々と協力しながら、高齢者の健康増進に寄与する科学的知見を獲得することができました。
今回の研究成果は、2021年3月25日付 (英国時間) でScientific Reports (IF: 3.998) にオンライン掲載されました。Scientific Reportsは自然科学のあらゆる領域 (物理学、環境科学、生物学、健康科学など) を対象としたオープンアクセスの電子ジャーナルです (どなたでも記載されたDOIから無料で閲覧することができます)。また本研究は、公益財団法人石本記念デサントスポーツ科学振興財団の学術研究助成を受けて実施されました。
【論文情報】
論文名:Impact of home-based squat training with two-depths on lower limb muscle parameters and physical functional tests in older adults
著者: Akito Yoshiko1 and Kohei Watanabe1
所属: 1 Faculty of Liberal Arts and Sciences, Chukyo University
雑誌名: Scientific Reports
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-86030-7
【研究者情報】
教養教育研究院吉子彰人助教の研究情報:https://researchmap.jp/a-yoshiko/
スポーツ科学部渡邊航平教授の研究情報:http://kwatanabe.net/index.html