スポーツ科学部來田教授 東京2020組織委員会 理事に選任

 スポーツ科学部の來田享子教授が3月3日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の理事に選任された。新理事には、來田教授を含む12人の女性が選任されている。來田教授は、スポーツ史やスポーツとジェンダー、オリンピック教育を研究分野としており、現在は本学体育学研究科長、日本スポーツとジェンダー学会会長などを務めている。

(中京大学)來田先生.JPG

【以下、來田教授のコメント】

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、世界に新型コロナウィルスの感染が広がる中で、1年間、延期されました。大会の延期は120年以上続くオリンピック史上、はじめてのことです。未知のウィルスとの向き合い方は少しずつ明らかになってきています。しかし、世界中で多くの命が失われ、今なお、医療従事者をはじめとして対策にあたる人々には、大きな負担がかかっています。

 日々の行動に制限が生まれ、仕事が思うように進まない人、仕事を失った人が世界中にいて、みなが不安を抱える毎日が続いています。こうした世界情勢の中で大会を開催すること、開催するとすればどのような方法をとるべきなのかについては、様々な意見があります。政府、組織委員会のほか、感染症対策の専門家たちがその答えを模索しています。世界中の知恵を寄せ集めても、まだ絶対的な正解は見えていません。

 これまでにも大会の開催に危機が訪れ、オリンピック・ムーブメントの継続が危ぶまれたことはありました。第一次、第二次世界大戦によって、 1916年、1940年、1944年の3度の大会は中止されています。継続が危機に陥るたびに、オリンピックの理念は見直され、社会にとってより必要とされるものへと変わっていきました。一方で、近年のオリンピック・パラリンピックでは、経済的格差が広がる中での商業主義、勝利に価値を置くあまり他者への尊重が失われる傾向など、様々な弊害があることも指摘されています。いずれも人間と社会の過剰すぎる欲望が引き起こしている弊害です。また、東京2020大会に関していえば、多様性と共生を大会の重要な柱に置いていたにもかかわらず、ジェンダー平等の観点でオリンピック憲章に見合わない出来事が起きてしまいました。

 コロナ禍で目に見えやすくなったこれらの弊害や出来事は、多くの人が改めてオリンピック・パラリンピックとは何なのかを考えるきっかけになりました。大会が単なるメダル獲得をめざすスポーツ競技会ではないことが広く社会全体に認識されつつあります。

 組織委員会理事会の女性割合を40%にするという新たな対応がなければ、私が理事に就任することはありませんでした。「女性だから」理事になった、頭数をそろえるための手立てだ、という見方も可能です。しかし、共に新たに理事会に加わった女性たちを「頭数」としてしか見ないことには、抵抗を感じます。どの人も、自分が持っている専門的な知識や生きてきた経験をもとに、自分の言葉で意見を語り、他のメンバーと力を合わせていくはずです。多様性を認め、人々が対等に共に歩む道への第一歩は、同じ土俵で対話することからしかはじまらないことを歴史は教えてくれています。

 組織委員会の中では、性・性的指向・人種・国籍・民族など、あらゆる社会的な属性をはりつけて個人の存在を見ることをしない、そういうチームの一員でありたいと考えています。そのような組織委員会のあり方は、大会に関わるすべての業務が終わり解散した後も、社会のモデルとして歴史にその足跡を残すことができるだろうと思います。微力ながら、その一員として、力を尽くしたいと考えています。

2021/03/15

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