元オリンピック競泳選手の高橋繁浩教授(スポーツ科学部)が公開講座で語る
「アスリートとして、そして指導者として-ロンドンオリンピックへの期待-」

 高橋繁浩教授

【講演要旨】
 滋賀県の中学校の水泳部で、いわゆる部活をしていた私は、中3で全国中学生大会に優勝し、当時インターハイ常勝校の尾道高校へ進学することになった。高2のとき、サンタクララ国際水泳競技大会で1位(100m・200m平泳ぎ)、世界ランキング1位となる。まさにシンデレラボーイだった。ただ、この後は決して順風満帆というわけではなかった。

 一つは、中京高校へ移るという環境の変化があった。また、身体の成長に伴い筋力強化に励んでいたことが却ってかみ合わず、違和感があり、記録はどんどん低迷していった。

 さらに、モスクワオリンピックの代表選考会では、泳法違反で失格となってしまった。非常に辛い経験だった。ただ、しばらくして、「次のオリンピックに向けて」と思い始めたら、仲間たちの励ましに気づいた。自分を取り戻したら、記録も少しずつ戻ってきた。

 1984年、ロサンゼルスオリンピック出場後、現役を引退した。「悔いなし」のつもりだったが、1987年のルール改正で私の泳ぎが泳法違反でなくなると、当時は指導者になっていた私に、周囲は再度挑戦を勧めてくれた。いろいろ迷った末、ソウルを目指すことにした。

 27歳で迎えたソウル大会では、決勝には残れなかったけれど、自己の立てた日本記録(200m平泳ぎ)を10年ぶりに塗り替えることができた。大舞台で更新できたことは私の誇りだが、それは、そういう機会を与えられ、環境に恵まれてこその結果だったと思う。

 現在、指導者となって思うのは、日本の水泳界が我々の時代では考えられない状況になっているということ。つまり、日本記録を出すことが評価された時代から、「メダルに手が届くのでは・・・」と期待の高まった時期を経て、今や選手たちは銅メダルぐらいではさほど嬉しがらない時代となった。「金でなければ・・・」というわけだ。ちなみに、「日本選手は外国人に比べて体格・体力が劣っているから勝てない」とよく言われるが、日本の水泳選手の平均身長は、我々の時代からほとんど変わっていない。つまり、でかくなってはいないが強くなっている、ということだ。

 それは、日本水泳界が様々な策を講じてきた結果と言える。一つには、専門家たちが適切に選手を支える体制を整えてきた結果、競技生活を長く続けられるようになったことが挙げられる。オリンピック出場も2度目や3度目ともなれば冷静に対応できるし、経験豊かな選手はメンタルコントロールやコンディショニングに長け、確実に成績を納められる。

 さらに、ここぞという時に力の出せる選手を選考したり、選手主体のチームづくりに努力してきた背景も相まって、日本の競泳チームは躍進してきたというわけだ。

 さて、7月27日にロンドンオリンピックが開幕する。4月の選考会で決定した日本代表の競泳選手は27名。そのなか、やはり最も注目されるのは、オリンピック出場が4度目となる北島康介選手(100m・200m平泳ぎ)だろう。彼のレース展開は、良くも悪くも、日本チームの活躍に大きな影響を与えることになるはずだ。

 では、日本の競泳チームはどれくらいメダルが狙えるのだろうか。昨年の世界ランキングと現在の日本競泳チームの記録とを比べると、「金・銀・銅の合計で、最高12個のメダルをとれる可能性がある」というのが私の予想だ。

 私も解説者としてロンドンオリンピックに参戦する。ぜひ人々の感動を呼ぶような解説をしたいと意気込んでいるところだ。

(6月29日・名古屋キャンパス431教室)

2012/07/09

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