【プレスリリース】脳への微弱な電気刺激が両手同時に発揮する握力を高めることを発見
概要
中京大学スポーツ科学部の荒牧勇教授とスポーツ科学研究科大学院生の彦坂幹斗(日本学術振興会特別研究員)による研究チームは、脳への微弱な電気刺激が、両手同時に発揮する握力を高めることを明らかにしました。
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は、頭部に陽極と陰極の電極を置き、微弱な電流を流すことで、主に電極直下の脳部位の興奮性を変化させる手法です。この手法を用いて、たとえば、左脳を陽極刺激すると、右手の力発揮が向上することなどが報告されてきました。「一方の脳を陽極刺激すると反対側の手の運動機能が高まる。」これは左脳が右半身を、右脳が左半身を制御する左右交叉性支配の原則を考えると説明がしやすいことです。こうした結果をもとに、tDCSのリハビリテーション分野の研究や臨床応用が進んでいます。
ところが、多くの日常動作では、片手だけの運動ではなく、左右の手、左右の脚の同時かつ協調的な運動が必要となります。両手を同時に動かす時には、脳梁を介した左右の脳活動の抑制的な干渉や、同側性の脊髄への投射など、神経メカニズムが複雑になります。よって、tDCSで片方の脳を刺激した時に反対側の手だけでなく、同時に発揮する同側の手の運動機能がどのような影響を受けるかは予想がしにくく、もしかすると反対側の手のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことも考えられます。この点を明らかにすることは、tDCSの全身運動への効果、すなわち、日常動作やスポーツ動作、リハビリテーションへの応用を考える上でとても重要な問題です。
そこで、我々は、tDCSを用いた脳への電気刺激が、同時に発揮する両手の握力にどのような影響を及ぼすかを検証しました。
図1 脳への電気刺激によって予想される効果と実験結果 |
実験の結果(図1)、左脳の頭表に陽極、右脳の頭表に陰極の電極を固定して、1.5mAで15分間の電気刺激を与えた場合、我々の予想通り、片手で行った右手握力は、偽刺激を与えた時よりも大きく(平均して+1kg)なりました。また、両手同時に握力発揮した場合も、右手(+1.1kg)、左手(+0.7kg)ともに大きくなることが分かりました。さらに、片手で行った左手握力も僅かではあるものの大きくなる(+0.5kg)ことが分かりました。これらの結果は、左脳を陽極、右脳を陰極で電気刺激すると、片手運動でも両手運動でも、筋力発揮をしやすい脳状態になることを示しています。
今後の展開
本研究は、脳への微弱な電気刺激が、片手の握力だけでなく、両手同時に発揮する左右の握力を高めることを明らかにしました。tDCSによる多肢の同時運動のパフォーマンス向上が確認されたことにより、tDCSが、高齢者の日常動作改善、脳卒中後のリハビリテーション、スポーツパフォーマンスの向上に有効である可能性が強くなりました。ただし、この技術を長期間使用した場合の安全性や、スポーツ応用に対する倫理的な問題については、慎重に議論を進めていく必要があります。
論文名
"Effects of bilateral transcranial direct current stimulation on simultaneous bimanual handgrip strength"
Mikito Hikosaka and Yu Aramaki
Frontiers in Human Neuroscience、発行:2021年6月2日(オンライン版)
本研究の助成について
本研究は文部科学省科学研究費補助金、中京大学特定研究助成金の助成によって行われました。
<お問い合わせ先>
中京大学学園事業推進部広報課
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