法実践プログラム(LPP)

法実践演習Ⅰ(民事法)

何を学ぶのか、誰と学ぶのか、どう活かすのか

理論と実践で活きた学問を

理論と実践の両立し、活力に満ちた学問の場を作りたいという思いから、2011年度からスタートした授業です。おかげさまで11年目を迎えることができました。2020年度と2021年度の活動実績を報告致します。たくさんの希望者から選抜した、活気に満ちた受講生ばかりでした。

プログラムの内容

民法教員がコーディネーターとして担当し、現役弁護士の古賀照平先生と協力して授業を担当しました。重要な民事判例をピックアップし、研究者と実務家の二つの目線で判例を素材に次のような流れでディスカッションを行いました。

  1. 裁判を理解するための資料の読解方法を最初からレクチャーします。
  2. 裁判の対象となる紛争の事実関係を図示化しながら整理します。
  3. 原告、被告それぞれの立場に立ち、どのような主張が可能かを自分の頭で考え、意見を発表します。
  4. 実際の判決文を読み、関係する条文の解釈・条文の理解の方法につき学びます。
  5. さらに意見を交換し、望ましい解決とは何かについて意見交換をします。

この授業でどんなことが学べるのか?

生きた法の使い方を知ることが出来る

例えば、保証人になったけれども、後になってから事情が変化したため保証契約をなかったことにできるかどうかについて、有名な判例を扱ったことがありました。まずは理論面での仕組みを説明しました。弁護士の先生からは実際の取引の仕組みや訴訟での証明の方法など実社会における法の使い方を、実務家ならではの観点から説明をして頂きました。普段の法学部の講義ではなかなか知ることができない知識を得ることができました。

問題解決能力の向上

答えは一つとは限りません。結論とその結論に至る理由が説得的であることが重要です。教員側のメッセージを理解してくれた受講生が、ヒントのない状態で「私は○○という人に対して、民法○○条を用いて、損害賠償を請求します。なぜかというと…」と、ゼロから自分の思考を論理立てて、オリジナリティにあふれ、誰もが納得する意見を述べてくれました。

業務遂行能力

この授業では模擬裁判を行います。模擬裁判で現役の弁護士と向き合うためには戦略が必要です。どのような主張をするといいのでしょうか。どのような反論がくるのでしょうか。皆で考えなければなりません。模擬裁判で相手方だけではなく、裁判官という第三者も説得しなければなりません。説得的な主張をするためには、どのような作業が必要で、それをいつまでに行えばいいのでしょうか。自分たちの思いを、「業務」に進化させながら実現していくことができます。

模擬裁判

2020年度・2021年度もメインイベントの模擬裁判を無事に終えることができました。訴状を作成するところからスタートし、訴訟形式で意見をたたかわせました。それぞれの主張がどれだけ説得的であるかを競い、裁判官がジャッジを行いました。

2020年度の模擬裁判のテーマは「有責配偶者からの離婚請求は認められるのか?」でした。有責配偶者とは、離婚原因がある方の配偶者であり、原則として有責配偶者からの離婚請求は信義則に反するため認められません。しかし、破綻した夫婦間の婚姻関係を認めることにどこまで意味があるのかと考えると離婚を認めた方がいいかもしれません。そういった観点から、一定の条件をクリアする場合には有責配偶者からの離婚請求を認める判例が下されました。他方で、何の落ち度もないにもかかわらず離婚を迫られた配偶者が、病弱で働けない場合やまだ小さな子供を育てていかなければならない状況にあると、離婚を認めるべきではないと考えることもできます。有責配偶者からの離婚請求が認められるのか、生活のための金銭給付が認められるのかを争点として、模擬裁判が行われました。2020年度はコロナウイルス感染症の感染予防の観点からリモート形式で行われました。白熱した裁判が繰り広げられ、初めて学生側が勝利しました。

2021年度の模擬裁判のテーマは「損害賠償請求の範囲はどこまで及ぶのか?」でした。交通事故が起きたとき、被害者は治療費や通院費等色々な費用を損賠賠償請求することになるでしょう。しかし、損害賠償の範囲は無限ではありません。被害者が交通事故の発生前からの要因(身体的特徴や既往症など)が原因で損害が拡大した場合、その分を損害額から差し引くべきなのでしょうか。加害者と被害者間での望ましい解決とは何なのでしょうか。加害者が負うべき責任の範囲をどのように考えるべきでしょうか。そうした観点から、損害賠償の範囲をめぐって模擬裁判が行われました。2021年度は対面形式で行うことができました。白熱した議論が行われました。

まとめ

条文や判例をどのようにして実践的に生かすべきなのかを模擬裁判を通じて学ぶことができたのではないでしょうか。「誰が、誰に、どのような理由で、どのような救済を求めて」訴えを提起するのかを議論していく中で、自分の力で考える重要性を学びました。また、私達がなかなか知ることができない実社会の経済の仕組みと法律の関係や、訴訟における証明の意義など実務家教員の担当するプログラムならではの生きた知識を身につけることができたと思います。 学びの過程において「わかったつもり」に陥ってしまうことがあります。議論や対話を通じて、色々な気づきを得ることで自分の立ち位置を自覚し、発言や議論の内容がますます活発化していく受講生の姿に、担当教員として感慨深く思います。

無事に模擬裁判を終えることが出来たことに安堵しています。受講生を支えて頂いた古賀照平弁護士、裁判官役をお引き受け頂いた杉島先生、土井先生、上田先生に心より感謝申し上げます。また、2021年度受講生を惜しみなくサポートして下さった2020年度受講生の皆様、ありがとうございました。

受講生のこれまでの感想

  • どんな授業だろうと興味を抱いたので参加した。結論として非常にためになる素晴らしい授業だと感じました。法学部で法律を学んでいるときに、この学んだ知識をどのように活用すればよいのだろうかという気持ちになったことがある。それを解決してくれるような授業でした。
  • やりきって達成感を得ることができたと思います。今までの授業とはまるで異なる模擬法廷でしたが力を合わせてやり終えたと思います。何度も図書館に集まり、判例の研究や読み込みを進め、膨大な資料の中から使用できそうな言い回しを抜き出すなど事前準備を周到にした。来年は傍聴席で裁判を見学する形で参加したい。
  • 今回の模擬裁判の準備を通じて、判例を色々と読み進めていく中で、結論へたどり着く過程の重要性をひしひしと感じました。難しかったけれど、振り返ってみると楽しかったようにも感じます。
  • こんなにも本気で学び、裁判を行うことができたことで自信とともに今後の目標もできました。こんなにも達成感、充実感のある授業に参加できたことを嬉しく思います。本当にありがとうございました。
  • 模擬裁判が終わり、振り返ると、私が求めていたものはすべて得ることができたと思いました。準備段階という目に見えにくいところこそが核であり、全力で、妥協なく取り組みました。時間を忘れて物事に取り組むというのは久しぶりでどこか満足感がありました。この時間は私にとって財産になったと確信しています。これを思い出だけにせず、学んだことをきちんと活かさなくてはならないなとある種の責任のようなものを感じました。
  • 一番学んだのは、「インプットとアウトプットの均衡の重要性」である。どちらが欠けても主張は通らない。両者の均衡を保つことで主張に説得力が生まれるのだ。

法実践プログラム(LPP)