理論と実践の両立し、活力に満ちた学問の場を作りたいという思いから、2011年度からスタートした授業です。おかげさまで11年目を迎えることができました。2020年度と2021年度の活動実績を報告致します。たくさんの希望者から選抜した、活気に満ちた受講生ばかりでした。
民法教員がコーディネーターとして担当し、現役弁護士の古賀照平先生と協力して授業を担当しました。重要な民事判例をピックアップし、研究者と実務家の二つの目線で判例を素材に次のような流れでディスカッションを行いました。
例えば、保証人になったけれども、後になってから事情が変化したため保証契約をなかったことにできるかどうかについて、有名な判例を扱ったことがありました。まずは理論面での仕組みを説明しました。弁護士の先生からは実際の取引の仕組みや訴訟での証明の方法など実社会における法の使い方を、実務家ならではの観点から説明をして頂きました。普段の法学部の講義ではなかなか知ることができない知識を得ることができました。
答えは一つとは限りません。結論とその結論に至る理由が説得的であることが重要です。教員側のメッセージを理解してくれた受講生が、ヒントのない状態で「私は○○という人に対して、民法○○条を用いて、損害賠償を請求します。なぜかというと…」と、ゼロから自分の思考を論理立てて、オリジナリティにあふれ、誰もが納得する意見を述べてくれました。
この授業では模擬裁判を行います。模擬裁判で現役の弁護士と向き合うためには戦略が必要です。どのような主張をするといいのでしょうか。どのような反論がくるのでしょうか。皆で考えなければなりません。模擬裁判で相手方だけではなく、裁判官という第三者も説得しなければなりません。説得的な主張をするためには、どのような作業が必要で、それをいつまでに行えばいいのでしょうか。自分たちの思いを、「業務」に進化させながら実現していくことができます。
2020年度・2021年度もメインイベントの模擬裁判を無事に終えることができました。訴状を作成するところからスタートし、訴訟形式で意見をたたかわせました。それぞれの主張がどれだけ説得的であるかを競い、裁判官がジャッジを行いました。
2020年度の模擬裁判のテーマは「有責配偶者からの離婚請求は認められるのか?」でした。有責配偶者とは、離婚原因がある方の配偶者であり、原則として有責配偶者からの離婚請求は信義則に反するため認められません。しかし、破綻した夫婦間の婚姻関係を認めることにどこまで意味があるのかと考えると離婚を認めた方がいいかもしれません。そういった観点から、一定の条件をクリアする場合には有責配偶者からの離婚請求を認める判例が下されました。他方で、何の落ち度もないにもかかわらず離婚を迫られた配偶者が、病弱で働けない場合やまだ小さな子供を育てていかなければならない状況にあると、離婚を認めるべきではないと考えることもできます。有責配偶者からの離婚請求が認められるのか、生活のための金銭給付が認められるのかを争点として、模擬裁判が行われました。2020年度はコロナウイルス感染症の感染予防の観点からリモート形式で行われました。白熱した裁判が繰り広げられ、初めて学生側が勝利しました。
2021年度の模擬裁判のテーマは「損害賠償請求の範囲はどこまで及ぶのか?」でした。交通事故が起きたとき、被害者は治療費や通院費等色々な費用を損賠賠償請求することになるでしょう。しかし、損害賠償の範囲は無限ではありません。被害者が交通事故の発生前からの要因(身体的特徴や既往症など)が原因で損害が拡大した場合、その分を損害額から差し引くべきなのでしょうか。加害者と被害者間での望ましい解決とは何なのでしょうか。加害者が負うべき責任の範囲をどのように考えるべきでしょうか。そうした観点から、損害賠償の範囲をめぐって模擬裁判が行われました。2021年度は対面形式で行うことができました。白熱した議論が行われました。
条文や判例をどのようにして実践的に生かすべきなのかを模擬裁判を通じて学ぶことができたのではないでしょうか。「誰が、誰に、どのような理由で、どのような救済を求めて」訴えを提起するのかを議論していく中で、自分の力で考える重要性を学びました。また、私達がなかなか知ることができない実社会の経済の仕組みと法律の関係や、訴訟における証明の意義など実務家教員の担当するプログラムならではの生きた知識を身につけることができたと思います。 学びの過程において「わかったつもり」に陥ってしまうことがあります。議論や対話を通じて、色々な気づきを得ることで自分の立ち位置を自覚し、発言や議論の内容がますます活発化していく受講生の姿に、担当教員として感慨深く思います。
無事に模擬裁判を終えることが出来たことに安堵しています。受講生を支えて頂いた古賀照平弁護士、裁判官役をお引き受け頂いた杉島先生、土井先生、上田先生に心より感謝申し上げます。また、2021年度受講生を惜しみなくサポートして下さった2020年度受講生の皆様、ありがとうございました。