バーミンガム大学にて在外研究中の尾和先生より報告
2026/07/31
バーミンガム大学の国際開発学科にて在外研究中の尾和潤美先生からのご報告です。
1.在外研究先の国・都市・研究機関について教えてください。
2025年8月から1年間、イギリス第2の都市であるバーミンガムに滞在しております。バーミンガムはイギリスの産業革命時代に重工業を中心として近代化を牽引した都市です。そして、世界の製造業の中心となったバーミンガムに海外からの移民や難民が流入しました。この歴史があるため、現在でもバーミンガムには移民が多く、44%の市民が移民のバックグラウンドがあり、その半数は海外で生まれています。街を歩いていても、見かける人の多くが有色人種、レストランの多くが多国籍で、特にインド系が多いですが、カリブ系、アフリカ系もよく見かけます。
在外研究の受入れ研究機関は、バーミンガム大学の国際開発です。バーミンガム大学はイギリスの著名な国立の研究型大学24校で構成されるラッセル・グループに属し、世界各国からの留学生も多いです。キャンパス内には日本食のレストランもあり、学生は多国籍な環境で勉強しています。
2.ご自身の研究内容について教えてください(これまでの研究の概要、在外研究での研究テーマ、研究成果など)。
現在、「英国の開発援助政策―日本との比較分析を通じて」というテーマで研究をしております。イギリスの援助の動機について、昨年は主に机上研究を行いました。バーミンガム大学の図書館は開発援助やアフリカに関連する英語の文献が多く、自分の研究にとても有意義でした。昨年11月に日本で開催された国際開発学会において、イギリスの援助の動機がなぜ国益を重視する方向に変化しているかをオンラインで発表しました。今年に入ってからはイギリスの政治家、政府関係者、大学関係者、メディアなどへのインタビューを実施し、その成果をベルギーで開催されたEuropean Association of Development Research and Training Institute (EADI) の学会で発表しました。
また、6月には国際機関であるOECD本部に出張し、OECDの開発援助委員会(DAC)の関係者に開発援助政策の国際規範の変化や加盟国である援助国の動向についてインタビューを行いました。そして、7月に開催された英国のDevelopment Studies Associationにおいて発表しました。さらに、バーミンガム大学の共同研究者と共に日本の援助に関する研究を実施しております。
イギリスでは、政権・首脳交代に伴って開発援助政策が変化する傾向があるため、7月下旬にバーナム首相が就任されたことを受けて開発援助政策がどのように変化するのか興味深いです。
3.研究環境について教えてください(研究機関の概要、共同研究者、これまでの研究実績など)。
受入れ機関の国際開発学科には、国際開発研究を中心として、援助研究やアフリカ研究を専門とする研究者も多数在籍されています。バーミンガム大学の受入れ教授はNiheer Dasandi氏で、国際開発学科が所属するSchool of Governmentの研究長をなさっています。彼と他の数名の研究者と共に、日本の援助に関して共同で論文を執筆しております。日本人の視点でイギリスを見ること、イギリスからそしてイギリス人の共同研究者の視点で日本を見ることで、当該国の他国との同意性や異質性を際立たせることができて興味深いですし、共同研究者から学ぶことも多くとても貴重な経験です。
国際開発学科所属の研究者と同じフロアに共同研究室があり、図書館も近くにあるのでとても良い研究環境です。また、規模の大きいスポーツジムやオリンピック規格のプールもあるため、運動をしながら研究に集中する環境が整備されています。
また、バーミンガム大学は私が博士課程を卒業したウォーリック大学にも近く、かつての指導教官であるPeter Burnell名誉教授にも十数年ぶりにお会いし、現在の研究内容についてアドバイスを頂ける機会を得るとともに親交を深めました。
4.滞在先の様子や滞在国の良いところ、町の雰囲気、興味深い文化や人々の様子などについて教えてください。
バーミンガム大学関係者が多く居住している地域に住んでおり、緑が多く、自宅の庭にもリスやキツネ、カタツムリやカエルなど多くの小動物や昆虫がおります。自宅前の1910年に建設されたコミュニティセンターで頻繁にコミュニティのイベント(音楽祭、映画祭、クラフトマーケット、フィッシュアンドチップス・クイズなど)が開催され、地域住民のつながりを深める機会が多くあります。私が居住する地域は、産業革命によって人口が増加したために1900年代初頭に建築家によって設計されたテラス・ハウス(イギリスでよく見られる長屋)式団地で、当時の街並みや家の外観が受け継がれ、1970年には保全地区として指定されています。春から夏にかけて緑のカーテンにように茂る大きな緑樹は、秋には黄金色となり、冬先には美しい落ち葉の絨毯が街を彩ります。
他方で、バーミンガム市の中でも地域によっては治安が悪く、路上にゴミが散乱しているような場所もあります。昨年夏には全国的にイングランドや英国旗を路上や家に掲げる移民排斥の運動が広がりましたが、その始まりはバーミンガムだと言われています。また、イギリスは特に過去数年、多数の亡命希望者(難民申請の結果を待っている人)を受け入れており、2026年3月末の段階で5万人弱の亡命希望者がおり(難民認定された人ではありません)、その約2割の人々がイギリス各地のホテルで生活をしています。バーミンガム市はイギリスで2番目に多く亡命希望者を受け入れている地方自治体で、世界的に名が知れたホテルも亡命希望者の受け入れ先となっています。
このように、バーミンガムには自然やコミュニティを大切にするというイギリスの伝統も残り、移民や難民の流入と共に多国籍の食文化が広がる一方で、亡命希望者の流入や生活環境の整備といった課題が政治問題になっている複雑性もあります。当地に居住することで、これまで知らなかったイギリスの一面を体験することができ、多角的な視野で自分の研究内容を理解することにもつながっています。
5.学生へのメッセージがあれば、ぜひお願いします。
海外で生活することは、予期せぬことに出会うこともあります。私はロンドンやパリへの出張などにおいて、予約していた国内の長距離電車やユーロスターが空調設備の不備や架橋の落下、車両整備が間に合わないという理由により約2か月間で4回も前日又は当日にキャンセルとなりました。「日本だったら・・・」と愚痴を言うことは簡単ですが、重要なのは現状を受け入れてこれからどうすべきかを考えることだと学びました。そして当然のように機能している日本のインフラが、そこで働く数えきれない人々の努力によって成り立っていることを再認識しました。
海外に住むこと、そして海外の文化や状況を知ることは自国を知ることにもつながります。同時に、海外に限らず日本国内でも、現在の生活環境と異なる環境に勇気をもって飛び出すことで、異なる文化や社会を知ることができ、自分自身を見つめなおし成長するきっかけにもなります。コンフォート・ゾーン(居心地の良い環境)に留まらず、ぜひ冒険をしてください!