自然由来の素材・プロセスを利用した素材開発
工学部
野浪 亨 教授
ハスの葉表面の微細構造が建材の撥水技術に、鳥のくちばしの形が新幹線の空気抵抗低減に、また、カタツムリの殻が汚れの落ちやすい材料に応用されています。このような、生物が環境に調和するために自己最適モデリングの結果得られた精妙な組織・構造やそのプロセスを素材の開発に応用することができます。
"バイオミメティック(生体模倣)製造プロセス"は、環境への影響が大幅に低く安全で室温および常圧で合成でき、エネルギー消費が少ないためSDGsに合致したプロセスとなり得ます。 "擬似体液"を使ったバイオミメティック製造プロセスでは、骨や歯の主成分であるアパタイトを合成すると同時に、他の材料と複合化することも可能です。体温程度に保った擬似体液に、光触媒である酸化チタンを浸漬すると、1時間程度で表面に微細な結晶が析出し、アパタイトに転化します。この複合化により光触媒活性の向上が成し遂げられます。
竹炭等の生物由来炭素化合物は、植物の自己最適モデリングの結果得られた精妙な組織構造を有しています。このような構造を人工的に再現・合成することは非常に難しいのですが、私たちはその構造を利用することができます。
竹炭が金属イオンを吸着するのは、主に、細孔への物理吸着、酸性官能基への化学吸着、竹炭が含有する金属イオンとのイオン交換等によるものです。例えば、道管等を由来とする竹炭のミクロ~マクロサイズの細孔は金属イオンの吸着に大きく寄与しますが、今までの研究で金属イオンの種類によっては炭の表面に残存する酸性官能基への化学吸着の役割が大きいことが分かっています。例えば、セシウムイオンは、低温で炭素化し有機物を完全に燃焼させずあえて酸性官能基を残した、"未熟炭素化竹炭"への吸着効果が高いのです。
複雑で高度な自己組織化構造を有する自然由来の構造やプロセスを利用することで安心・安全な生活の確保に役立てるとともに、新しい素材の設計のための知見にしたいと考えています。
バイオミメティク製造プロセスにより合成したマリモアパタイト™
擬似体液中で常温・常圧でセラミックスである"アパタイト"が合成できる
竹炭の電子顕微鏡写真
植物の自己最適モデリングの結果得られた精妙な組織構造を利用することができる