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計算機を動作させるための言語を計算機言語というのに対して,人間が使う言葉を自然言語という.自然言語の中でも英語や日本語を対象として,文法や意味,文脈などを人間がどのように捉え,解釈するかという研究を行ってきた.この研究の延長線として,ロボットと人間との会話,すなわちロボットと人間が言葉によって意思疏通をするためにはどうすればよいか,という研究がある.
私の研究の基本は,自然言語に対する論理的なアプローチである.人間やロボットが状況をどのように表現し,与えられたゴールを達成するためにどのようなプランニング(計画立案)を行い,それがどのような行動や言語行為として現れるかを研究している.そして 1989年と 2001年には,そのような研究のメッカ的存在である米国のスタンフォード大学の CSLIで在外研究を行った.
2000年代に入ってからは,論理的なアプローチだけではなく,量的なアプローチも重視するようになった.計算機の計算速度が高速になり,かつ記憶容量が大規模なものになったことから,人間が膨大な言語資料から見いだすよりも多くの規則性や関連性を計算機で分析し,計算機自身が学習できるようになった.ただ,それには質のよい言語資料が必要であり,その根本にあるものは人間の言語能力である.
中京大学に来てからは,幼児がどのように言葉を獲得していくかについても研究対象とした.そのため,普通の手段ではなかなか言語資料をとりにくい幼児の発話資料を始めとして,新聞や小説,ブログやTwitterなどの言語資料を収集し,分析することを行っている.
特に注目しているのは,人間は「文単位」ではなく関連性のある一連の文を用いて会話する,ということである.つまり,会話を構成する文はばらばらではなく,意味的に結束し,かつ首尾一貫したものであると期待される.またその仮定の元で,一つ一つは曖昧な文であっても全体として意味のある分かりやすいものになる.そこで聞き手はそのことを手がかりとして発話を理解し,また話し手は聞き手が理解しやすいようにいろいろな手がかりを与えている.どのように発話同士が結束するのか,またこの手がかりがどのようなものか,それをどのように人は理解に役立たせているのか,を主な研究対象としている.
最近のロボット研究の発展から,「計算機と人間とのコミュニケーション」ではなく「ロボットと人間とのコミュニケーション」と研究対象を拡張した.これは近未来においてロボットが人間生活に入り込み,ますますロボットと人間との自然なコミュニケーションが必要となると考えたからである.それには,ロボットの身体を作るだけでは足りず,言語を理解し生成するソフトが必要である.そのソフトを実現するための研究を行っている.
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