5月の経済研究所セミナー

要旨:
法政大学経済学部の濱秋純哉准教授をお招きして,5月23日(金)16時40分より,名古屋キャンパス14号館経済学部会議室にて,経済学附属経済研究所セミナーが開催された。
この論文は,著者の研究グループが実施した独自調査「家族とくらしに関するアンケート」の個票データを用いて,我が国における遺産の分割方法がどのようになされているかを検証したもので,実際の相続割合は,平均的には法定相続から乖離しており,特に被相続人の子供の取り分は上方に乖離,生存配偶者の取り分は可能に乖離することを見出した。また,兄弟姉妹間の格差の平準化や親との関連性,生存配偶者のニーズなどが,一次相続の配分に強い影響を持っていること,二次相続時には法定相続に従う傾向が強いことも明らかにしている。
セミナーでは,予定されていた時間を超えて,濱秋准教授と所属スタッフとの間で活発な議論が行われた。
(経済学部准教授 湯田道生)

要旨:
本報告は,政府の予算決定をプリンシパル・エージェント問題として定式化し,日本の財政赤字拡大問題に示唆を与えようとしたものである.
プリンシパル(例えば財政当局)はエージェント(例えば支出官庁)の行動を予測しながら予算額を設定し,エージェントは予算を事業間にどのように配分するかを決定する.このとき,プリンシパルとエージェントの各事業に対する選好が異なるならば,プリンシパルが設定する予算規模はファーストベスト解とは一致しない.さらに,エージェントの選好に関して不完備情報が存在し,同じゲームが2期間にわたり繰り返される状況を考えると,エージェントの第1期の予算配分がプリンシパルにエージェントのタイプを知らせるシグナルとなる.各エージェントが自分の真のタイプを伝える分離均衡と,タイプを偽る一括均衡が存在するが,一括均衡においては,エージェントに第2期により多くの予算を獲得しようという戦略的意図が働く.すなわち,エージェントがプリンシパルと似た選好をもつタイプであるとき,第1期にプリンシパルとは選好が異なるタイプであるというシグナルを送ることによって,第2期に大きな予算を得ることができる.なぜなら,プリンシパルは自分とは選好が異なるエージェントによって自分が望む政策に対して予算が十分に配分されないことを恐れるからである.
精緻な理論分析から政策的含意を引き出した興味深い報告であり,参加者との間で多くの議論が行われた.
(経済研究所長 釜田公良)