PICK UP!

保見プロジェクト

中京大学豊田キャンパスに近い保見団地の県営保見集会所で、
週1回、子どもたちに朝食を提供しています。

豊田市で初の子ども朝食堂

「おはよう!」元気よくあいさつを交わしながら、リュックを背負った子どもたちが、県営保見集会所へやってきます。毎週金曜日に開催する子ども食堂で、朝ごはんを食べるためです。豊田市役所福祉部によれば、朝食を提供する子ども食堂は、豊田市では初めてとのことです。

朝食を提供することにしたのは、これまでの調査で、保見団地には朝ごはんを食べない子どもが多いことがわかっていたからです。

この子ども食堂は、中京大学現代社会学部国際文化専攻の学生たちが、担っています。冷凍庫に保存してある食材を考慮しつつメニューを考え、必要な食材を発注するだけでなく、パンなどは個包装にしてもらうなど、感染対策もします。

当日は、6時に集会所に集合!夜勤明けで「これから眠る」という方も暮らしておられるので、ご迷惑にならないよう小声で朝の挨拶をして、準備開始です。ご高齢の方もたくさん暮らしておられる団地ですから、感染は絶対に避けなくてはなりません。対面にならないよう机を配置し、アクリル板で仕切り、椅子も机もアルコールで消毒。学生はマスクの上にフェイスシールドも付けます。マスクをつけてやってきた子どもたちは、まず検温、そして石鹸で手洗い。それから席について、名前やアレルギーの有無等を出席カードに書き込みます。

それからやっと朝ごはん。授業に遅れないようにするために、ゆっくり食べるわけにはいきませんが、それでも大学生とのちょっとしたおしゃべりはかかせません。学生たちも、子どもたちとの触れ合いが、やりがいにつながっています。

現代社会学部と保見団地

現代社会学部の前身である社会学部が設立されたのは、1986年です。そして、キャンパスのすぐ隣にある保見団地に暮らす外国籍市民が増えたのは、1990年の入管法改正からでした。以降、学生たちは、外国人医療支援グループによる健康相談会の補助、日本語が不自由な子どもたちに居場所を提供するNPO法人トルシーダのお手伝い、東保見小学校での学習支援などを通して、外国にルーツを持つ方々との交流を深めてきました。「朝ごはんを食べない子どもが多い」ということがわかったのは、こうした活動を通じてなのです。

この交流が一段と深まったのは、2019年度の秋学期の「国際理解教育Ⅱ」がきっかけです。この科目では、内閣府・豊田市・中京大学の3者連携による規制緩和事業に取り組みました。履修者たちは、豊田市市役所職員やトルシーダのメンバーなど、たくさんの方々のご協力を得て、「多文化共生」という課題に取り組み、豊田市長や内閣府参事官の前で、課題解決の方策を提言しました。

2020年1月に、休眠預金を使う市民活動助成金の事業募集があり、「国際理解教育Ⅱ」を履修した学生たちが、自分たちの提言をもとに事業計画を作成して、応募しました。応募に際しては、中京大学だけでなく、トルシーダ、県営保見自治区など、5つの団体が「保見団地プロジェクト」というチームを組みました。幸い、厳しい審査を経て、「保見団地プロジェクト」の事業計画は採択され、保見団地での活動が始まりました。県営保見集会所での子ども食堂は、保見団地プロジェクトの事業計画のひとつであり、トルシーダや県営保見自治区と協働して実施しています。

教えてもらわないことも学ぶのが大学

保見団地での活動の核になっているのは、斉藤ゼミの学生たちです。斉藤ゼミの重要なルールは、ゼミ担当教員を「先生」と呼んではいけない、ということです。学生たちは、この「理不尽な」ルールがなぜ存在するのか、最初はわかりません。でも、ゼミでさまざまな市民活動に関わるうちに、どうやら自ら進んで活動し、自分で課題を発見し、自分で課題解決に取り組むのがたいせつで、教員は学生の活動を手助けすることしかできないらしい。だから、「先生」がなんでも教えてくれて、その通りにすればいいのは、「大学」ではない。ということが、わかってきます。

実際、保見団地プロジェクトの事業計画作成も、審査を受けるのも、事業計画の実施も、すべて学生たちがやっています。ゼミ担当教員は、時々「それじゃだめ」とか、「やり直し」とか、文句をつけるだけです。

既存の目標への到達ではなく、自分たちで新たな枠組みを考え、決めていく力は、先の読めない現代社会に最も求められ、評価されるものです。ゼミのプロジェクトを通じての多様な人々との交流、大きな経験は、必ず社会で活かせるでしょう。

※2021年1月、愛知県に緊急事態宣言が発せられて以降は、パンや肉まん等を配布するだけにしています。