グローバル社会の潮流の変化
自由貿易の旗手日本への期待

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宮川 正裕 教授

 昨年来、欧州や米国を中心として、これまでのグローバリゼーションの流れとは異なったナショナリズム的保護主義の動きが拡がっている。こうした世界経済の潮流の変化点に差し掛かっている今、日本及び日本企業はどのようなかじ取りをしてゆくべきかについて、国際経営論の分析視点をもって考察してみたい。

 グローバル化の概念が一般化されたのは、東西ベルリンの壁崩壊に続く旧ソ連の解体という大事件が起こった1991年以降のことである。冷戦終結とともに旧社会主義国が市場経済に移行し、国境を軽々と越えて人やモノが自由に行き来するグローバル化の動きは、24時間世界中の人々と瞬時のうちに繋がるというIT革命や各国の規制緩和策と相まって、多くの人々に受け入れられてきた。

 しかし今、そうしたグローバル化の潮目が変わり、英国における国民投票によるEU離脱の決定、米国におけるトランプ新政権の保護主義的政策、フランスの極右政党の躍進等排他的な自国第一主義の渦が見られるようになってきた。英国のEU離脱決定ショックのうねりは、キャメロン首相の辞任を強いて株価や為替等のグローバル市場に大きな影響を与え、米国トランプ新大統領による保護主義的政策は、国内外に批判の波紋を投げかけている。米国と英国という世界の代表的民主主義国が、国民投票と選挙によって「既存秩序をぶち壊す」決定をした影響が、今世界に拡がっているのである。

 日本は、これまで「貿易立国」と「投資立国」の両立を実現させるために、対内直接投資や対外直接投資を促進させるグローバル化に取り組み、産業界での新たな技術や経営ノウハウの獲得による生産性の向上を図ってきた。企業の持続的成長の実現のためには、環境の変化を的確に把握し、あらゆる経営資源を駆使して適応してゆく経営戦略が不可欠であるが、日本の多くの製造企業は産業構造の変化や為替の急激な変動に対応して、グローバル展開を図ってきた経緯がある。

 地政学的カントリーリスクが増大する世界情勢の中にあって、従来以上のリスクマネジメント、戦略的人的資源管理が必要となるが、海外市場で最も進んだ技術や情報、多様な人々のニーズを分析して新たなイノベーションを生み出し、「範囲の経済」と「規模の経済」のメリットを取り込んで全体最適を図るグローバル経営は、日本産業にとって引き続き重要な基本戦略となろう。

 通商白書(2006, 2007年)に記されている様に、グローバル化を活かした日本の生産性向上と投資立国実現の試みは、「世界各国に対して新たな成長モデル」になり得るものと評価される。数日前の報道でフロマン前米国通商代表部代表が、「米国が自由貿易で後退している今、日本は反保護主義の旗手として強いリーダーシップを発揮すべきである」とする期待が紹介されていたが、我が国は、グローバル社会における協調的自由貿易の重要性を強く世界に発信してゆくべきであろう。

宮川 正裕 (みやがわ まさひろ) 中京大学 総合政策学部教授

国際経営学・マネジメント論

青山学院大学国際マネジメント研究科博士(国際経営学)                                                                                                               

1949年生まれ

2017/04/24

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