島おこしと自衛隊
島を二分した誘致論争はいま

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佐道 明広教授

 私は安全保障論、防衛政策史を研究している。表題は、一見すると無関係なものが結びついていると思われるかもしれない。実はこの問題で住民を二分する事態になった地域があった。沖縄県の与那国島である。日本最西端の国境の島。住民約1500人で、となりの石垣島よりも台湾のほうが近い。その島が人口減になやみ、台湾との交流に活路を見出そうとしていた2004年ころから私は調査のために島に何度も足を運んだ。台湾との交流は国家の壁がありながらも少しずつ拡大していたが、そこに持ち上がったのが自衛隊誘致問題だった。町長や町議会の議員多数が誘致活動を行い、自衛隊の基地が新設されることになったのである。

 国境の島に自衛隊基地が新設されることは望ましいと多くの方は思われるだろう。ここで問題なのは、与那国で自衛隊誘致活動を行った人々の多くは、防衛政策の視点ではなく、経済振興への期待から誘致を行っていたことである。つまり人口減に悩む過疎地域が、自衛隊員が島に常駐することでの人口増加と、補助金を期待していたわけである。自衛隊が来ることで島が潤うと期待した島民の多くが署名を行った。たしかに、基地建設工事や自衛隊員の来島で、島は一時期、「自衛隊バブル」と言われるほど好景気に沸いたのである。

 しかし、自衛隊は生産活動を行う組織ではない。つまり、消費財購入や一時的な補助金を除いて自衛隊が島の経済に貢献することはなく、人口減の原因を解消することはできないのである。自衛隊誘致に反対した人の多くは、自衛隊というカンフル剤に頼るのではなく、台湾交流を積極的に進めることに活路を見出すべきだと考えていた。しかし、地縁血縁が濃密に結びついた島を二分した論争は、自衛隊誘致賛成で一応決着したが、感情的しこりを残すことになった。

 現在は「自衛隊バブル」も終わり、再び島の将来への不安が増してきつつある。自衛隊誘致に反対した島民の中には、島の特産品を積極的に活用し、販売網を広げることに期待する人もいる。私も与那国の台湾交流を調査した時以来のご縁で、微力ながら協力させていただきたいと考えている。今年度は「社会人基礎力講座」という授業で「与那国島の振興」を課題にし、学生たちに様々なアイデアを出してもらった。そのなかでも多くの学生の関心を集めたのが「長命草」である。

 「1株食べれば1日長生きする」と言われた長命草は「ボタンボウフウ」という植物で、「長命草」という名前は与那国島しか使うことができない。現在、資生堂など一部の企業で製品化が行われており、健康食品として注目されている。実は中部圏でも「長命草」を使用したのど飴などを作っている企業があり、思わぬところで与那国との関係ができている。防衛政策に翻弄された島の将来のためにも、中部地域の関係が一層強くなっていくことを願っている。

 

佐道 明広 (さどう あきひろ) 中京大学 総合政策学部教授

日本政治外交史
東京都立大学(現首都大学東京)大学院社会科学研究科博士後期課程
博士(政治学)
1958年生まれ

2017/03/13

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