「少額短期保険業と認可特定保険業 法改正の正義を問う」
土岐 孝宏 法学部准教授

 土岐准教授
土岐准教授

 保険事業は、原価未確定性、将来債務性という当該事業の特質に由来する危険、すなわち、保険料の不適切な設定・その放漫な管理・運用がなされれば事業破綻につながるといった危険を構造的に抱えた事業である。ゆえに、加入者保護の要請が働き、金融庁(国家)による保険事業の監督が行われる。ところで、社会には、「保険(業)」とは別に、「共済」と呼ばれる保障事業も存在する。理念はともかく、保険同様の仕組みをとるので、上記危険に由来する加入者保護の要請は保険同様に生じる。オレンジ共済事件などの消費者被害を受け、平成17年保険業法改正は、「保険業」の定義変更を行い、根拠法のない共済(なお、JA共済等、根拠法のある制度共済とは区別される)の事業者が、今後、従前の保障事業を継続する場合は、(それが任意団体なら平成20年3月末までに、公益法人なら平成25年11月末までに)保険会社の免許を取得するか又は同改正で新設された少額短期保険業者の登録(=金融庁の監督)を受けなければならないものとした。

 少額短期保険業の監督は、事業の内容を制限しておくことで破綻の際の社会・契約者に対する影響を限定しておき(年間収受保険料50億円以下の小規模事業者でなければならず、かつ、少額保障・短期保障の商品しか販売できない)、その代わりに、登録制で事業参入を認め、登録時に行われる商品の保険数理審査も保険計理人が確認したことのみ確認する(行政は事前審査しない)など、保険会社よりも緩い基準で行うことに要点がある。

 さて、上記の移行期間終了後は、少額短期保険業という新たなミニマム・スタンダードでの監督が、金融庁により一元的に実施され、契約者保護が一律その水準以上で実現するはずであった。しかし、平成22年保険業法改正は、当該スタンダードに移行できなかった事業者を救済するとの大義で、主務官庁の「認可」を得ることを条件に、当分の間、平成17年改正業法公布時の事業をそのまま行えるとする認可特定保険業者の制度を誕生させた(なお、(移行済み)少額短期保険業者は、当該業者になれない)。

 認可特定保険業者は、少額短期保険業者と異なり、事業規模規制がなく、また、少額短期の拘束がない自由な商品が販売でき、株式での資産運用が認められる等、事業運営上の自由も享受し、さらに保険計理人を必須に関与させなくてよい分、コスト軽減まで図れる。要するに、正直に法に対応した者(少額短期保険業に移行した者)よりも、法に対応しなかった者が、有利となる法改正が行われたのである(その後ろめたさか、平成24年業法改正は、少額短期保険の保険金額制限の特例措置を平成30年まで延長するとしたが、理念なき場当たり対応である)。法遵守に対する国民の期待を裏切り、必要とされたはずの契約者保護制度に抜け道を用意した政治の責任は、極めて重大である。

 いずれにしても、認可特定保険業の加入者は、将来債務の履行に備えた責任準備金の積立について保険計理人の関与は原則不要であること(=チェックが効かない)、契約者保護機構制度(保険会社用)も供託金制度(少額短期用)もなく、破綻すれば、完全なる契約者の自己責任が問われることを自覚しておく必要があろう。

【略 歴】
土岐 孝宏(どき たかひろ)・中京大学法学部准教授
商法
立命館大学大学院法学研究科博士課程後期課程修了・博士(法学)
昭和53年生まれ

2013/01/24

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