アートギャラリーC・スクエア

第103回 元田久治展

会期 9月26日(月)~ 10月22日(土)
休館日 日曜 ※10月10日(祝)は開館
開館時間 午前9時~午後5時  入場無料
トークイベント
講   師 元田久治
日   時 10月1日(土) 14時00分~16時00分
※トーク終了後、17時00分までレセプションを開きます。
会   場 0805教室ならびにC・スクエア(0805教室にお集まり下さい。)
※聴講無料 予約不要(0805教室着席定員89人)
お知らせ

本展会期直前の9月中旬、(株)エディシオン・トレヴィルより元田久治第一作品集『NEO RUINS』が出版されます。
http://www.editions-treville.net

作品紹介

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「Indication-Flinders Street Station (Melbourne)」
69×105cm リトグラフ 2010年
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「Indication-Opera House (Sydney)」
54.2×80cm リトグラフ 2010年
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「Indication-Harbour Bridge(Sydney)」
27.5×55.5cm リトグラフ 2010年
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「Foresight-Stadium1(AT&T Park, San Francisco Giants)」
88×178.5cm リトグラフ 2011年

解説

幻視されたパラドクス

  <既視感>
  3.11が語られるとき「想定外」という言葉が使われる。だが、元田久治の作品を眼にしていた者は「既視感」を覚えたはずだ、元田の手によって3.11の光景が既に作品化されていたという「既視感」を。これは9.11の崩落シーンを思わず「ハリウッド映画のようだ」とつぶやいた目撃者の感想と似ているかもしれない。
  元田作品を観る者の頭の中では、現在から未来を照射した「想定」と現在から過去を回顧するかのような「既視感」とがオーバーラップする。元田が幻視するのは、そのようなパラドクスの光景なのだ。

  <スタジアム>
  元田作品に描かれる建築様式のなかで歴史的に最も古いものはスタジアムだろう。ローマのコロセウム遺跡でおなじみの様式で、今回の出展作品ではメルボルン(オーストラリア)のクリケット競技場「MCG」とサンフランシスコ(米国)の野球場「AT&T」が該当する。
  イタリアの銅版画家ピラネージはローマの遺跡景観を記録した作品集でゲーテの名紀行『イタリア旅行』を触発したことで有名だが、「カンポ・マルツィの大地形図」(1762)というシリーズではローマ中の廃墟を過剰なまでに復元した空想の古代ローマを描いている。建築家としての素養を活かすに留まらず、想像力を奔放に働かせすぎて考古学的事実から逸脱していたそうだ。
  元田作品では時間を未来に早送りしたかのような風化(あるいは廃墟化)した状態が幻視されているが、「MCG」と「AT&T」に関しては単にピラネージのコロセウム復元(=時間の巻き戻し)の逆方向を狙っただけではない。荒れ果てた無人のスタジアムを照らし出す照明灯の光線(=廃墟をショーアップする元田の眼差し)が作品の時空間に一種のねじれを与えている。審美的にも哲学的にも独特で、効果的な照明だ。古代ギリシアのオリンピックを始源とするスタジアムの表象の歴史に新たなイメージが加えられている。

  <ランドマーク>
  「フリンダーズ・ストリート・ステーション」はオーストラリアで最古の同名の駅を駅前交差点を挟んだ対角線上の正面から眺めた作品であるが、ここはメルボルンで最も交通量の多い交差点である。画面に向かう視点の背後にはセントポール大聖堂が建ち、駅舎の大通りを挟んだ左側にはフェデレーション・スクエアが広がっていて、メルボルンのランドマークが集中しているスポットでもあるから、普段は行き交う人々の波が途切れることはない。
  そのような繁華な場所から人気〈ひとけ〉を奪い、駅舎を崩したものは何だったのだろうか。3.11後の日本人は地震と津波の被害を、更には放射能汚染を想像するだろう。9.11直後だったらテロを連想していたかもしれない。米国人は今でも一番にテロを想起するのだろうか。
  交差点に放置されている様々な車両のダメージは駅舎ほどではないように見えるが、中央の乗用車が路面に埋まり、その路面には不規則な亀裂が走っている様子は洪水後に水が退いた跡のようにも見える。天災か。人災か。ヒントはあるが正解は見当たらない。
  元田は自ら撮影した写真を元に、リトグラフを制作する過程で廃墟化(あるいは風化)を施す。その精緻な手作業を神業と呼ぶのはクリシェかもしれないが、そこにはデモーニッシュな破壊衝動が働いている。

  <シドニー・オペラハウス>
  07年に世界遺産登録されたシドニー(オーストラリア)のオペラハウスはその独特の形状でよく知られているが、シドニー湾を臨む絶好の立地も手伝ってヨットの帆あるいは貝殻に見立てられたりする。構造的にも強固なフォルムを設計したのはデンマーク人の建築家ヨーン・ウツソンだった。
  元田の「オペラハウス」を見ると、建物を支える土台部分に比べてオペラハウス本体の損傷が少ない。画面左側の遠景にアーチの右側が見えるハーバーブリッジの、遠目にも深刻そうなダメージとは対照的だ(因に元田の「ハーバーブリッジ」では遠景にオペラハウスが臨めるが、ほとんど無傷に見える)。元田は破壊する建築物の強度のリサーチを怠らない。この元田らしい壊し方は、結果的に、ウツソンの設計の優秀性を証明している。
  一方で、元田「オペラハウス」はドイツ・ロマン派の巨匠フリードリヒの「氷海」(1823-24)の構図と相似している。崩壊したオペラハウス一帯の様相が北極圏の氷山の形成する廃墟のようなフォルムに(遠景左手のブリッジも含めて)見事に重なる。シドニー湾の景観を氷海の廃墟に重ねた元田の幻視によって、太古よりの先住民の地に新しく築かれた世界遺産オペラハウスの反=自然性が浮き彫りにされて見えてくる。

  <侘び寂び/反=文明>
  西洋の廃墟画では繁茂する植物は文明の敗北を象徴するが、文明/自然の対立構造が稀薄な侘び寂び文化の伝統を意識する元田は、作品に加筆する緑(たとえば第二期の「東京駅」)に西洋的二項対立を超えた再生・希望の兆しを託しているのかもしれない。これも元田ならではの幻視光景のパラドクスではないだろうか。

 

中尾秀博(中央大学文学部教授)

プロフィール

元田久治
元田久治 / Hisaharu Motoda
1973年 熊本県出身
1999年 九州産業大学 芸術学部 美術学科 絵画専攻卒業
2001年 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画(版画)専攻修了
2009-10年 文化庁新進芸術家海外研修制度研修員(オーストラリア、アメリカ)

主な個展

2007年 熊本市現代美術館ギャラリーIII熊本)
2008年 養清堂画廊(東京)
2009年 AIN SOPH DISPATCH(名古屋)
hpgrp GALLERY東京(東京)
2010年 Victorian College of the Arts, the University of Melbourne(メルボルン、オーストラリア)
2011年 Murata & Friends -Neo-Ruins-(ベルリン、ドイツ)

主なグループ展

2008年 VOCA展2008 現代美術の展望-新しい平面の作家たち(上野の森美術館)
空は晴れているけど -浜口陽三と元田久治、小野耕石、杢谷圭章-(ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション/東京)
2009年 メリー・ゴー・ラウンド -煌めきと黄昏-(熊本市現代美術館)
現代絵画の展望 12人の地平線 東京ステーションギャラリー企画(旧新橋停車場鉄道歴史展示室)
2010年 水景頌 画廊50年の軌跡(不忍画廊/東京)
版画の色--リトグラフ(文房堂ギャラリー/東京)
内在の風景 -Immanent Landscape-(West Space /メルボルン、オーストラリア)
On View : New Work from Kala(Kala Art Institute Gallery /バークレー、アメリカ)
収蔵作品展 幻想の回廊034 -Imaginarium-(東京オペラシティーアートギャラリー)
2011年 I氏コレクション展(高崎市美術館/群馬)
JAPANCONGO -Jean Pigozzis collection-(Centre National d Art Contemporain /グルノーブル、フランス)
内在の風景展 -Immanent Landscape-(小山市立車屋美術館/栃木)

受賞

2001年 神奈川国際版画トリエンナーレ2001 準大賞(神奈川県民ホールギャラリー)
2002年 日本版画協会展 日本版画協会賞(東京都美術館)
第34回ジヨ−ル国際美術家シンポジウム Chief Prize(Municipal City Museum /ジヨール、ハンガリー)
2003年 第11回プリンツ21グランプリ展 特選(東京)
2009年 日本版画協会展 準会員優秀賞(FF賞)(東京都美術館)

パブリックコレクション

町田市立国際版画美術館(東京)、府中市美術館(東京)、佐喜眞美術館(沖縄)、上山田文化会館(長野)、Municipal City Museum(ジヨール、ハンガリー)、熊本市現代美術館(熊本)、東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)

http://web.me.com/motoda_01_01

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