文学部文芸創作コンクールで1年生の近藤幹大さんが入選
体言止めのリズムに着目した「ジュブナイル」

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入選した近藤君

 私は今年度開かれた「第9回文学部文芸創作コンクール」において、『ジュブナイル』という作品で入選させていただきました。文芸創作コンクールは、文学部生が創作した小説作品を対象に年に1度開かれています。入選作と準入選作は冊子にしていただき、大学の図書館に保存されます。

 私の作品『ジュブナイル』は帰省する大学生の列車内での回想を描いています。ダム湖に沈む故郷の現状と、主人公の少年時代の出来事が、列車のリズムに揺られながら語られます。

 私はこの作品で「地の文をすべて体言止めで統一する」という通常の文学作品にはない表現を行いました。地の文にリズムを与え、読者に実際に列車に揺られているような感覚を味わってもらうためです。

 こうした実験的な試みを思いついたのは、既存の文学作品の表現の限界について疑問を感じたためです。既存の作品の多くは、作者や物語の登場人物と読者が同一の感覚を味わうことが出来ません。あくまでも文章によって情報を伝え、読者が場面や心情を想像するだけです。しかし私は文章のリズムに着目し、それを作中のリズムと同期させることで読者との一体感を目指しました。こうして生まれた一体感を審査員の先生方に高く評価していただきました。

 私は現在、文学部言語表現学科で言語表現を学んでいます。特に文学作品における言語表現には興味があり、優れた作品の表現を学びながら、既存のルールにとらわれない表現を模索しています。今後も実験的な試みに挑戦し、優れた文学作品を生み出すことが出来るよう努力していきます。

 また文学部文芸創作コンクールの作品は名古屋キャンパス3階のライブラリーサービスセンターにて読むことが出来ます。お時間がございましたら、手に取っていただけると幸いです。

(文学部 言語表現学科1年 近藤幹大)

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(審査委員長・酒井敏文学部長の講評から)
 
入選作は、一回限りの成功とも評せそうな、文章表現上の工夫が生きていた。「大嫌いな故郷」に帰省する「僕」の1時間半の「旅」、車中での回想を描く。帰郷というテーマ、回想される内容(初恋と相手の死、将来の希望をめぐる親との対立、そして上京)、その故郷がダムに沈むという設定、これらの道具立てに目を引くような新鮮さはない。しかし、作者は地の文を全て体言止めで統一し、読者が「一定のリズムで揺れながら」旅している「僕」に自然にシンクロできるような、心地よいリズムを生み出した。当り前の文章作法から外れて意図的になされた、この工夫を買う。一回限りの成功とも評せそう、とした理由であり、いずれの応募作からも書きなれた印象を受けた中で、敢えて入選に推した理由でもある。もっとも読者を意識して書かれ、その戦略が成功した作品と認めたい。

 文芸創作コンクールの過去の入選作受賞者には、舟橋聖一文学賞を受賞した河島光さんらがいる。さらに上を目指し、若い書き手として、新鮮さを求め、敢えて実験を試みる野心を忘れないで欲しい。

2014/03/31

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